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ピンサロにアカリ 2話「バンギャ・エミちゃん」
激安風俗ユーザーさんの投稿コラム

ナイトワークの世界は、おおむね予定調和で動いているような気がする。
お客さんを喜ばせるには、接客の流れを頭の中で計算していなければいけない。
嬢や黒服と雑談をする時には、当たり障りのなさそうな言葉を選んでおけば波風が立たない。
どちらのシーンでも、わざわざイレギュラーな言動を突っ込んで、その流れを乱す必要はない。
お客さんたちの唾液まみれになった身体で、所属店の黒服とデートをするという一連の流れも、また予定調和だったりする。
最終的には、ホテルに泊まりセックスをするだろう。
そんなことはお互いに分かっているのに、どちらもそれをはっきりとは言い出さない。
予定調和はあくまでも予定であって、確定していることではない。
それが現実のものになる時点までは、男と泊まることもセックスをすることも、ただの予定でしかないのだ。
その曖昧さが、私の気分を盛り上げていく。
メールで指定された場所は、道玄坂をのぼったところにあるカフェ。
私は何食わぬ顔で店を出て、電車に乗り渋谷まで来た。
タカユキさんは店の締め作業を終えてから、タクシーで向かってくる、予定である。
伝えられていた予想時刻に20分ほど遅れて、タカユキさんはやって来た。
「おまたせー。スマンね、これでも急いだんだけど。」
「大丈夫ですよー。おなか空きました。ビール飲みたい。」
「いやー、スマンね。居酒屋だ、居酒屋。」
ここではまだ手をつないだりしない。
せっかくの曖昧な予定が、確定に近づいてしまうから。
予定調和の上で過ごす時間を長引かせ、ギリギリまで楽しむために、まだまだ手をつないだりしてはいけないのだ。
「はっかいさん?」
「日本酒。飲めないの?」
「日本酒って飲んだことない。」
「あらあら、子どもじゃのう。」
「…飲めます。子どもじゃないし。」
「無理しなくてもいいぜー?」
カウンター席では、身体同士の距離を取らなくてはいけない。
手のひらひとつ分ぐらいの間隔を空けたまま、私たちは横並びに座っていた。
ビールを三杯ほど、それと一口の「はっかいさん」を胃に落としたところで、少しだけ眠たくなってきた。
時間の経過に比例して、手のひらひとつ分あったはずの隙間が徐々に消えていく。
タカユキさんの左手が、自然に腰に触れた。
「眠くなってきた?」
「うん。今日さ、忙しかったよね。」
「な。お疲れ。頑張ったな。」
このタイミングで頭を撫でてくるなんて、百点満点の反則だ。
「寝るか?」
「うん、寝る。」
幸いにも今日は平日だから、きっと円山町には人が少ないはず。
ただの予定が確定に変わる瞬間まで、あとほんのちょっと。
これだから、予定調和は便利で仕方がない。
口元が緩んでいることを悟られないように、うつむきながら身を預けた。
文|カサイユウ(ライター・元風俗嬢)

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当コラムコーナーは、実話もフィクションも入り混じっています。読み物エンターテイメントとしてお楽しみいただく目的で掲載しており、記事の行為を推奨したり、犯罪を助長するものではありません。
この記事を書いた人

カサイユウ(ライター・元風俗嬢)
二十代の大半を、東京の風俗業界で過ごした元風俗嬢。ナイトワーカーとしての半生をまとめた人気連載シリーズ。思慮深く、洞察に富んだ性格で風俗嬢ライフをさわやかに駆け抜ける。
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